7月に読んだ三冊

 

『論より詭弁 反論理的思考のすすめ』(香西秀信・著)

 

「発言内容は、発言者と切り離されて考えるべきだろうか。」と考えたことはないだろうか。この本は、詭弁・間違いとされてきた陳述と、従来から論理的と認められている論述の二項対立で話を進めている。僕が最初に問いかけた質問も、この本から引用している。論理的思考では、内容は発言者と切り離されて考えるべきとされている。なぜなら、発言内容についてどうかと聞かれているのに、発言者に文句をつけたりするのは、論点のすり替えに他ならないからである。しかし、次の場合ではどうか。「あなたが道で歩きタバコをしていたら、同じく歩きタバコをしていた人に注意された。あなたは『でも、あなたも歩きタバコをしているではないか。』と相手に言った。そしたら相手に、『それは詭弁だ!』と言われた。」この例において、論理的思考では「あなた」にも非があるとされる。なぜなら、「相手」が煙草を吸っていたからといって、「あなた」が煙草を吸っていた罪は帳消しにならないから。だが、筆者は「なぜ論点をすり替えてはいけないのか」と、論理的思考を包含する「レトリック」の立場からそれを問い直す。レトリックは必ずしも論理的とは限らない。論理のみならず詭弁も用いてでも、相手を説得する方法である。「説得」は「論破」よりも効力を発揮する時があると筆者は述べている。それは、力関係があるときである。もしあなたが弱者で、強者を論破できても、「詭弁で結構」と切り捨てられるかもしれないから。そんな状況を切り抜けるにはレトリックが有効である。この本は、従来否定されてきた詭弁に日の目を浴びせる一冊といえよう。

『これならわかる アメリカの歴史』(石出法太 石出みどり・著)
これならわかるアメリカの歴史Q&A

これならわかるアメリカの歴史Q&A

 

 

幼いころ『トムソーヤの冒険』や、『アンクル・トムの小屋』といった作品を、アニメや本で見たり読んだりしても、漠然とアメリカで問題になっている人種差別の問題をニュースで見るにしても、私はそんな背景知識について、少しも持ち合わせていなかったのでこの本を読むことにした。おそらくこの本は、数ある米国史を扱った本の中でもかなり読みやすい一冊といえる。ヨーロッパ人の侵入や植民地時代、西部開拓時代といった初期から、冷戦やベトナム戦争レーガン政権といった現代に極めて近い頃まで、Q&A形式で1対1で内容が進められる。そのため、歴史を学ぶとき特有の流れを意識するのに集中力を要することもそこまでないし、時間を置いたりしてもサラっと読みやすい。また、写真も多く、飽きさせにくい構成となっている。

 

『入門政治学』(仲島 陽一・著)

今年の都知事選に際して、私は初めて投票権を持った。しかし、自分が政治に対して都知事を選ぶほどには詳しくないと実感したため、政治経済の授業で扱っていたこの本を手に取った。名前に「入門」と付くだけあり、政治に疎い私でもすんなりと読むことができた。『現代日本の政治』と『政治の思想と現実』の二章で構成されており、前者は戦後から今にかけての選挙制度論や政治資金論、政治とメディアの関係等々、実際にあった出来事から「日本には未だこういった問題点がある」と解釈する部分である。たとえば、小選挙区制は少数意見が尊重されにくいなどといったことが論理的に、主観抜きに述べられていた。一方後者は、ファシズムの基盤となる考え方を形成したといわれる『社会ダーウィニズム』の説明から始まり、ファシズム論、ソ連論、アメリカ「自由主義」の批判的考察とつながる。これを読むまで僕はファシズムがどういう意味かについてピンと来てなかったが、それも克服された。この本を読んで、正直自分の選挙権に自信を持つという目的は達成できそうである。なぜなら、日本の問題点について知ることはできて、立候補者のマニフェストがそのうちどれを実現できそうなものなのかを考えればよいためである。